ダイアログ・イン・ザ・ダークシリーズ05 人間は暇になると何をするのか?

暗闇の世界。視覚のない世界。そんな世界に僕らはいる。世界の名前はダイアログ・イン・ザ・ダーク。暗闇の世界だ。
ツアーの終わりに、僕らは居間に通された。巨大なテーブルが置かれ、たたみの床に座り込む。光のない世界で、ツアーコンダクタさんが各種の缶ジュースを配ってくれた。どうやって設置されている缶ジュースの中身を見分けるのか、といわれれば、所定の場所に所定のジュースが設置されているということだった。僕らは暗闇の中で、缶ジュースを飲んでいた。僕はオレンジジュースを頼み、他の数人はウーロン茶を頼んだ。
ジュースを飲み終わると、みんなが暇になっていた。ツアーが順調で時間が余ったのだろうか、それとも前のツアーをしている人間がつまっているのだろうか。僕らは居間で待機していた。
さて、そんなときに、人は何をするだろう? 普通だったらケータイ電話を取り出してメールチェックを始めるだろう。本を読んだりする人間もいるかもしれない、だがDIDに視覚はない。視覚がないとき、人はどういう娯楽に走るのか。
僕が体感したのは、音楽だった。
その場にいた人たちは、飲み終わったジュースの缶を、ペコペコと叩きはじめた。音はほかにもいろいろ出せる。缶を凹ませる。机をこする。暇になった人々は、いろんな音を出していた。人間は視覚の娯楽がなくなると、自分から発せられる娯楽は、音声がほとんどになる。次は触覚か。
味覚や嗅覚が娯楽として弱い理由があるのだろう。危険度が高い、発現性が難しい、すぐに慣れてしまう、スピーディな変化を判断できない、などが考えられる。