不思議な少年

「ねえ、隣りに座ってるカレ、すごくかっこよくない?」
「ホントだ、超イケメン」
二人のOLがひそひそと話をした。
隣りに男が一人、座っている。端正な顔立ちをしている男で、上等なスーツを着ていた。町の中にある、ちょっと高級なレストラン。男は一人で食事をしていた。女性たちは給料日あとで、ちょっと奮発してこの店に来たのだ。
隣りから漏れ聞こえた声に反応し、男は女性に向かってにこりと笑って「ありがとう」と言った。女性たちの頬はぽっと赤くなった。自分たちの声が相手に聞こえてきた恥ずかしさと、好ましい男に声をかけられてうれしかったことの両方が入り交じったものだった。
男は食事を終えるとエスプレッソをさっと飲み、席を立った。
二人組がレジに向かうと「お代は先ほどの男性からいただいております」と答えられ、二人はお互いの顔を見合わせた。
「すごい得した」
「こんなことならデザートも頼めば良かったー」
女たちは顔を見合わせて笑った。
それから女たちは、食事処でこれ見よがしに隣に座った男性を褒めることにした。大抵の男は紳士的な態度をとり、悪い気はしなかったし、男が食事代を持ってくれたり、デザートを奢ってくれることもあった。そのあとナンパしてくる男もいた。女たちは得した気分になったし、相手の気分もよくしているのだからウィンウィンじゃないか、と幸福な日々を過ごした。
数ヶ月が経ったころ、女たちは以前見かけたあのイケメンが隣の席に座った。
「ねえ、隣りに座ってるカレ、すごくかっこよくない?」
「ホントだ、超イケメン」
女たちは聞こえるような声で言った。
男は女たちのほうを見て言った。
「奢って欲しいから言うようになってしまったね。残念だ」
男は冷たい声を出した。
女たちは自分たちが何を失ったのか、思い出すこともできなかった。