ダイアログ・イン・ザ・ダークシリーズ03 立体と距離について

僕は物体を立体的に見ることができない。飛んでくるボールの距離を測ることができず、キャッチボールはうまくできないし、バッティングはすべてタイミングだけを計ってバットに当てるしかなかった。多くの人が球をよく見ろ、と僕に言う。しかし理解できたのは大人になってからだ。なんてことはない。多くの人は両目で視覚認識し、その差で距離を測っていて、僕にはそれができなかったというだけだ。
同じように、人間は左右の耳が聞こえることで、音が鳴っているモノの距離を測ることができる。しかし、視覚よりも聴覚認識のほうが、距離が圧倒的に近い。物体との距離が音の大きさに依存してしまう。音は視覚と違い、同時認識できないので、認識方法に慣れが必要なのだろう。
暗闇の世界では、音がないものは見えないのと同じだ。目の前に人がいても、ものがあっても、音がしなければまったくわからない。
DIDの中でキャッチボールをした。もっとも投げたボールを空中で受け取るなんてことはできないので、床を転がしてボールまわしをする。ボールの中に細かいプラスチック製のチップが入っていて、転がすと音が鳴るものだった(後で聞いたら、障害者用のボールだそうだ)。それを転がすと、どちらにボールが転がっていくのかが認識できる。
しばらくしてボール回しに慣れてくると、今度はボールを投げて、小さく跳ねる程度のものなら受け取れるようになった。地面にバウンドする音、ボールから聞こえる小さな音を、立体視して受け取れる。
しかし視覚と同様に、僕には平面的に見えていた。右から左へ移動するボールを認識する。上から下へ跳ねるボールも認識できる。しかし、前後の距離がわからない。何人かはボールを上手に転がし、はねるボールをキャッチしていた。たぶん彼らは視覚でも聴覚でも立体視ができるのだろう。僕は手をすばやく動かし、立体的な距離を触覚で把握することにした。ボールが手に当たった瞬間キャッチした。
何が優れている、どちらが劣っている、という話ではない。人間はそういった困難に対応し、適応し、最適化する能力がある。ただ、どういう違いがあるのかを観察し、自分に合うものを選べばよい。もっとより良い認識方法があるかもしれない。

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