作り話:水戸黄門Z

「お待ちください御老公様」
巌を思わせる顔立ちをした巨漢が、片膝をついて言った。彼の着ている服は町民らしく簡素だったが、男の物腰は規律正しい武士のそれだった。隠そうにも隠せない仕草に、彼を見ていたもう一人の青年はため息をついて言った。
「カクさん。それぐらい、いいじゃないですか」
努めて穏やかな口調を出した青年に、カクさんと呼ばれた巌の男は鋭く切り返した。
「スケさんは甘やかし過ぎです」
スケさんは肩をすくめる。
カクさんの目の前には、涙目の少女が立ちすくんでいた。
「あわわ、でも、でも今買わないと、あのお菓子は人気で…」
少女は自分の胸の前で指を器用に動かした。その姿を見て、スケさんカクさんの二人の顔にほんのり紅を差した。(畜生、カワイイ)(ちゅーしてやりたい)二人の心の声が聞こえたような気がしたが、もし本当に聞こえたらそれは幻聴である。カクさんは、それを振り払うように顔を左右に振り、厳しい表情に戻る。
「今月のお小遣いは?」カクさんは低い声を出した。
「え」
「もうないはずですよね。なんで持っているんですか?」
「こ、これはそのスケさんから…」
カクさんは、キッとスケさんを睨む。瞬時にスケさんが口笛をふいてあらぬ方向を見た。
「ダメです」
「でも、でもぉ…そんなに怒らなくても…ふええ」
少女が涙目になった途端、いままで怒っていた男は慌てふためいた。
「ああ、その、御老公様! 怒ってません! 全然怒ってませんよ!」
「あ、泣かせた! カクさんひどい! 鬼畜! 人でなし! ロリコン!」
「スケさんは黙ってなさい!」
三人がわあわあと騒いでいると、一匹の犬が現れた。口には袋を咥えている。
「あれ、どうしたんですか、八兵衛」
「わん!」
犬は、少女の前に袋を置いた。なんとあの大人気で手に入らない『黄金のお菓子』だったのである。スケさんとカクさんが驚きの表情をした。
「え、あの、どこからコレを?」
少女が言った矢先に、遠くから声がした。
「この泥棒犬! ウチの菓子を盗みおって〜!」
「うわ、越後屋だ」「ちょ、これ、盗品では!?」「このアホ犬がー!」
三人と一匹は、一目散に駆け出した。
−−−−−
これは先の福将軍水戸光圀がなぜか魔女の呪いで幼女になってしまう物語である!
続かない。