趣味の高みへ

ケーキを焼くのが趣味だ。それから盆栽。
他にもいろんな趣味があるが、多くの人にたいして、公開している趣味は上記の二つ。その特異性からか、多少、ほどほどに、場を流すことができる。この趣味が上辺だけとは言わないが、本当に沸き立つようなギラギラしたものはない。少なくとも今の僕にはない。そして、もっと焦燥感のある趣味もある。
もう学生のころだから、20年近く前の話になる。マラソンをやっていると時々感じた、ランナーズハイの感覚。悟りに近いと僕は思う。悟りを開いた坊様と話をしたことがあって、そのとき彼は、降りしきる雪の中で経をあげている最中に悟りを開いたそうだ。それは極限状態におけるランナーズハイのようなものでは?と言うと、彼は笑って「そうかもしれないが、私にとっては悟りだった」と答えた。僕はそれで納得した。
趣味をやっていると、そういうときがときどきある。焦燥感。けっしてたどり着かないもの。すごいもの。そして、いつか悟りのように「なんだ、そんなことか」と言えるようなもの。それを手に入れたい。残念ながら、ケーキや盆栽から、僕はそこまでいける気がしない。ただの趣味で終わるだろう。だが、世界のどこかには、ケーキや盆栽から、その地点に行ける人間がいる。