作り話:誘拐犯

部屋に男と女がいる。二人は椅子に縛られていた。手足はまったく動かせない。椅子は強固な鎖で地面のパイプにつながれている。廃工場のように寂れていて、窓もない部屋だった。ドアが開くと、誰かが現れた。すっぽりと仮面を被っている。
男女はだまってそいつを見ていた。
仮面がゆっくりとした口調でしゃべった。
「久しぶりだね。私のこと、覚えているかな。中学校でいじめられていたAだよ」
機械のような声で、男女の区別ができない。
しかしその名を聞いた瞬間、男の顔が蒼白になった。女はいぶかしげに男を見た。「あなた、知ってるの?」女が聞いた。男は、だまったままうなずく。
冬のプールに落ちたように男は蒼白だった。
「同窓会の日、キミは私に言ったね。いじめて悪かった、許してください、って」仮面の人物は、ゆっくりと男と女のまわりを歩きながら続ける。「いいとも! 許してあげようじゃないか! 今から…、キミが私にしてきたイジメの数々を、この女の前で告白してもらう。そして、そのイジメを、この女に行う。キミは安心していい、何一つの危害も加えないから。そうそう、ちゃんと思い出してしっかりと伝えるんだよ、一つでも抜けたら、君たちの子どもにも同じ目にあってもらう。ゆっくりと考えて、思い出していい。時間はたっぷりあるからね。私は何度もキミに許してくださいと、言ったけど、キミはどういう行動をとったのか…よく思い出してね」
そう言うと、仮面は男の頬を優しく撫でた。手はひび割れ、焼け爛れていた。女はツバを飲み込み、男を見た。仮面は壊れたように笑った。

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なんかSAWっぽいオープニングだなぁ…。このあとの展開が衝撃的!って感じにならない気がする。
学生時代いじめられてて鬱病になった男がいて、そいつはロクな職につけず、惨めに生きてきた。ある日の同窓会。いじめっ子たちは立派に更正して社会人となり「あの時はゴメン!」って正面きって謝られた僕はどうすればいい? …みたいなネタがあって思いついた。どこにもいけない悪意、というものがある。飲み込むのは、相当なパワーがある人間じゃないと無理だろう。