すべてはひとつ

一匹の黒猫が現れて言った。
「あなたを連れて行く。世界の中心へ」
言葉と共に僕という存在は消え去り、僕は尊敬するAさんになっていた。Aさんを通してみた僕はひどく臆病で、はっきりとモノが言えない人間だった。僕は自分に嫌気がさした。
気づくと僕はBさんになっていた。Bさんから見た僕はずいぶんと偉そうで横柄だった。隠れてお菓子を食べていて、みんなに分け与えようとはしなかった。僕は自分に嫌気がさした。
ふたたび目をそらすと今度はCさんになっていた。Cさんから見た僕はとても大人で、優しかった。いろんなことを知っていて、まるで漫画の中にいる博士みたいだった。僕は自分が好きになった。
僕はいろんな人に入れ替わった。
あるときはDさんで。
あるときはEさんになり。
あるときはFさんだったり、
そして無数の人になった。
僕は多くの人になり、僕を見た。
良く見える人もいれば、悪く見る人もいた。記憶に残らないような人もいれば、強く記憶に残る人もいた。優しくも見えたし、非情にも見えた。
やがて黒猫が現れて言う。
「あなたは誰かわかったか?」
僕は誰だ? あなたは誰だ? 僕はあなたじゃないのか? あなたは僕じゃあないのか? 尊敬する人も、嫌悪する人も、すべては僕なのか? あなたなのか? それとも誰かなのか? 誰なのか?
もし、かりに、よしんば、
だとしたら、だとして、だったならば、
僕はどう行動できる?
世界が良くなるように。