仕事をした気になる人

ある老人の仕事をしている。その老人は、大企業のオエライサンだ。その老人が、自社のカタログ本を自分で手がけて作る、と言い出して、誰も逆らえず、作ることになった。
老人は図案を書き、ここにこの商品を入れる、あのカタログもってこい、と言い出す。コピーも取れない老人に、社員が一人、サポートとして付きっ切りになって、カタログを持ってくる。コピーして、それをハサミで切り、用紙に貼り付けていく。まるで小学生の工作のようだ。
一通り完成した図案を、DTPで組んだ。完成品を見て、老人は言う。やっぱりこっちの商品があっちの商品と入れ替え、この商品は取り扱いをやめて、新しい商品を入れる、AページとBページを入れ替えて、タイトルを変えて…。大量の赤字があり、新規案件よりもひどい作り直しが行われた。
そうやって、結局、校正は20回目。自分で発案し、作成されたものに対して、そうやって文句を延々つけて、すでに1年が経つ。
なぜ老人がそんなことをしているのだろう。
そんなに無能なのだろうか。そこで僕が思いついたのは違うことだった。
彼は仕事をした気分になりたいのだ。それ以外、彼は仕事がない。ただいるだけで金が入ってくる。周囲は誰も自分に逆らえず、意見を言ってくれる人もいない。みんなが楽しそうに働いている間、自分は個室でやることもなくネットサーフィンをしている。そうじゃあなくて、自分も働いているんだと思い込みたくて、そんなことを繰り返しているんじゃあないのか。自分も必要な人間なんだと、思い込みたくて。
それが彼の望んだ世界だったのだろうか。社会にはこんな老人、わりといっぱいいるんじゃない? 自分はどうだろう? 徹夜仕事で仕事をした気になってる人とか、客の無茶聞いて、部下に無茶をねじ込んで、仕事をした気分になっている人とか。