空想世界の住人

電車で隣に少女が座っていた。延々キティのおもちゃで遊んでいる。母親が隣に居たが、とくに注意はしなかった。そんなにうるさいわけでも暴れているわけでもないので、僕は彼女を眺めていた。
人形遊びをしているようだ。延々と何かをつぶやいていて、両手に持っている人形を倒したり起こしたりしている。彼女の頭の中は、キティ自身が動いているのだろう。自分が電車に乗っているということさえ自覚していないように思える。
昔は誰でもそうやって、どこに居ても空想の世界にいけたのに。周囲がどんなにうるさくたって関係なかった。瞬時にその世界にいけて、瞬時に没頭できた。彼女の見ているものが映像になって僕らから見えたら面白いのに、と思う。