クリスマスイブの夜に

電車を降りると、僕は白い息を吐いた。外気温はかなり低い。改札を抜けて、駅前へと進む。そこはずいぶんと明るくなっている。街中のライトアップはゴージャスになる一方だ。光の粒が集まっていて、まるでエレクトリカルパレードだ。
駅前はカップルが溢れていて、全員が上を見上げている。ライトアップが、人々を照らしている。数年前まで、こんなに派手なライトアップをしていなかった。ライトの熱で植物にダメージがあるせいだ。しかしLEDの開発のおかげで、植物へのダメージが減り、長い間ライトアップが可能になった。周囲にいる僕以外の全員が、幸せなカップルに思えた。まったくこんな時期まで仕事じゃなくてもいいじゃないか、と愚痴りたくもなる。
僕がケータイを開くと、着信メールが一通。
「駅に到着ー♪ 駅前の噴水です」
僕はすぐにケータイを閉じる。すでに噴水のすぐ近くだ。カップルに紛れ、彼女がぽつりと立っているのを発見する。赤いコートを着ていたが、ずいぶんと寒そうに見えた。彼女は携帯電話のモニタから顔をあげると、僕を見つけて微笑んだ。
「お待たせ」僕が言う。
「遅いよ〜。あんたが先頭なんだから、さっさとして。他の人はもう待ってるよ」
彼女は、手に持っていた大きな袋から、首輪を取り出して僕につけた。見ると、既に鎖につながれたトナカイたちが僕を見ている。僕は、自慢の赤い鼻を擦ってから、先頭に立った。彼女はソリに乗り込んだ。
さて、今年もお仕事だ。僕らが訪れるのは、良い子のところでも、暖かい家族のところでも、カップルのところでもない。孤独な子供のところにこそ、僕らという幻想は舞い降りる。