最強ゆえに最弱の思想

すべてを受け入れることのできる強さを誰もが求める。誰だって泣きたくない。辛い思いは嫌だ。そうやって自分の弱さを嫌悪する。そして、最後は、悲しみや、苦しみを捨てて、最強に成ってしまう。
だけど、それって本当に人間は、幸福になるのだろうか?
友人が死んだとき、最強の俺はそいつに言った。「安心して寝てろ、お前の分まで楽しんでやる。土産話を楽しみにしてな」だけど、それって、恐ろしいことだ。隣にいた最弱の僕が言った。「悲しいときに悲しめないのは、哀しいよ」
最強の者は、悲しいときに泣けない。本人さえも無自覚だ。きっとそいつは自分が死ぬことさえも受け入れる強さを持っているだろう。笑って死ねるだろう。でも、そこが、哀しい。
みんな望んで最強に成る。望んで最強に成ってしまう。だけど、大切な人が死んだときも泣けないのが、人間の目指すところなのか? 哀しいことを悲しめないのが強さだと言うのか。たしかに強い。誰にも負けない。絶望を駆逐し、希望を心に持っている。けしてくじけず、折れてもなお立ち上がる。
だけど、その最強が、僕は嫌いだ。
最強になんぞ、成ってしまうな。