絶望クッキー

男は持っていた紙袋に手を突っ込み中を弄ると、小さな何かを取り出して食べだした。ぼりぼりと租借する音が聞こえる。どうやらクッキーのようだ。袋に直接入れているのだろうか、という疑問はあったが、僕はそれを見ていた。
男は僕のほうを見て言う。
「よかったら一つどうだね」
「ありがとうございます」
僕が言って手を伸ばすと、男は意地悪するように袋を引っ込めた。僕は怪訝な表情をしてソレを見た。男は口元に笑みを浮かべて言う。
「これは絶望クッキーだ。私は他人の絶望を盗み取り、そいつを練り固めてオーブンで焼いて作ることができる。これは私の能力だ」
「はぁ?」
「バクって知ってるかい? 動物園にいるヤツじゃあないよ。他人の夢を食べる想像上の動物だ。私はアレの絶望版さ。私は他人の絶望を食べることができるんだよ。さて、絶望を失った人間はどうなるだろうね。さて、絶望を食べる私はどうなるだろうね。さて、君は他人の絶望を食べられるかな? さて、そいつはどんな味がするだろうね。ちなみに、オススメはしないよ。他人の絶望がどれだけの味か。一般人は泣き叫びながら味わい、何度も吐き戻しながら租借するそうだよ」
男は言いながら再び袋から取り出したそれを口に含んで食べた。ぼりぼりと租借する音が聞こえる。男はふたたび袋の口を僕に向けた。中には真っ黒な何かが入っているのが見えた。
…という作り話