零崎認識のオタク人間

「キミ、オタクって、どういう存在だか考えたことあるか?」
向かいの席に座っている男が、僕に問いかけた。
奇妙な男だった。
どこが奇妙なのか、明確に指摘できない。
髪の毛はきれいに整えられていたし、表情はきわめて無表情だ。上等な黒のスーツを着込み、磨かれた革靴を履いていた。しっかりとアイロンのかかったストライプのワイシャツに、シャレた髑髏柄があしらわれたネクタイを身に着けている。センスは悪くない。見た目は、何も問題がないように思える。
ただ、その男が、妙だ、と僕の中の何かがささやいている。本能だろうか、それとも思い込みだろうか。
男は、脚を組んだまま、言った。
「オタクってのはね、成ろうと思って成れるわけじゃあないんだ。目覚めたら、成ってるもんなんだよ。それは零崎一賊みたいにね。僕はそう成りたかったわけでもないし、そう成ろうと思ったわけでもない。ただ、目覚めたらそうだった、というだけなんだ」
それが、僕と彼との最初の会話だった。
僕はその後、零崎が殺人鬼集団だと、知ることになる。そして目の前にいた男が、何者なのかも。