寝ぼけてるなら寝かしつけてやるぜッ!

お姉ちゃんが身に着けているのは、シースルーのセクシーな下着だけ。その姿は全裸よりもエロチックに見えた。彼女は絡みつくような手つきで僕の頭をなでる。彼女は指先で僕の髪の毛を弄び、僕の耳元に瑞々しい唇を近づけると、甘い吐息交じりに言った。
「チョコレートオイルでマッサージしてあげようか」
僕は彼女の顔を見た。
僕と目が合うと、彼女はにやりと笑って鞄から茶色の小瓶を取り出した。瓶の中には、白く濁ったラードのようなモノが入っている。プラスチックのように滑らかなマニキュアの塗られた指先で、彼女は器用に瓶の中身を掬い取って僕に見せた。チョコレートの甘い香りが鼻に抜けていく。
ココアバターとナッツの保湿クリームだから、口に含んでも平気なの」
舌をちろりと見せて、彼女は笑う。
僕はベッドに仰向けに寝そべった。U字になっている専用の枕があるから、仰向けになっても息苦しくはないが、よだれが垂れそうで不安になった。
彼女は僕の腰の辺りに馬乗りになった。指先についた固形のオイルを両手の平で伸ばしていく。硬そうに見えたオイルは、あっという間に溶けて液状になってしまった。彼女はオイルのついた両手を、僕の背中に乗せた。
冷たい手の感触に、ぞくりと鳥肌が立つ。
彼女は僕の様子を見て、おかしそうに笑うと、ゆっくりとした手つきで背中をなでた。
オイル特有の摩擦係数の低さを背中全体で感じる。彼女の手は、僕の背中をアイスリンクのように滑っていく。同時に甘い香りが部屋中に広がり、僕は自分がチョコレートになった気分になった。たぶんこのまま溶けてしまうのだろう。僕は目を閉じた。


「…ちょっとk4君?」
「へ? はい?」
「仕事中だぞ、寝てたのか?」
「あ、部長。いえ、全然、寝てませんです。はい。考え事です。目を閉じていただけです。ホントです」
「バレンタインデーだから浮かれるのもわかるけど、いい加減にしないと、査定に響くよ」
「いや、ホントに今後の指針について考えておりました。そもそも僕にバレンタインデーは関係ありません。チョコレートも食べられません。お姉ちゃんなんて、なんともありませんです。僕、妹派ですから」
「何を言ってるのかわからないが、次から気をつけなさい」
「はい。気をつけます。ありがとうございました」
フン。川尻浩作め。ペコペコしやがって。そんなにチョコレートが欲しかったのか…気苦労の方が多いのに。