起きると寝る

電車に乗っていると面白い人間と出会う。今日の面白い人は、こんなヤツだった。年齢は二十歳前ぐらいの女性で、腕に刺青が入っている。指には重そうな指輪をごろごろと身につけていて、動くたびに金属の接触音が聞こえる。東南アジアにいるような、薄手の生地の服を重ね着していて、化粧が濃い。そんな女性二人組が、こんな話をしていた。
「寝るってチョー不思議じゃない? みんな当たり前に寝てるけどさぁ。あたし、チョーフシギだと思うの」
「へー、そー、ふーん」
片方の女性が延々ともう片方の女性にしゃべりかけている。片方は興味なさげに聞いているだけだった。
ちょっとだけ面白かったので、僕が答えてみよう。その考え方は「逆」だ。生命体は「寝ているのがデフォルト」であり、問いとしては「なぜ起きているのか」を問うべきだ。植物は常時寝ている。動物はときどき起きる。なぜ起きるのか。答えは「非常事態」だからである。食料を取る、危機を回避する、繁殖する、それらの自己の生命の危機であったり、種の存続であったり、理由はさまざまだ。しかし総じて「起きる」という行為はエマージェンシーへの対応である。植物は起きない。寝たまま生まれ、寝たまま死んでいくだろう。起きているほうが不自然な状態であり、起きているほうが危機的状況である。
もし「寝るのがフシギ」と思うのならば、それは言葉が少し足らない。「寝るという行為についての、人間の意識が不思議」ではある。なぜ、寝られるのだろう? 次、起きる確証もなく、当たり前のように眠ってしまう。それは不思議だ。なぜ信じられるんだろう。過去に何度となく繰り返してきた教訓なのか? それともそんな宗教に入っているからか?

                • -

今日の買い物
月姫(5) あいかわらず安定したつくり。安心して読めますね。