優しくない

実家に帰ると、年老いた祖母が「毎日ちゃんと食べてるかい?ほら、もっとお食べ」と僕に言う。「人間は食べ過ぎるから、体を壊す」僕は薦められた料理を断った。父親が「世の中には食べたくても食べられない人もいるんだぞ」という。僕は「その人たちもおなかがいっぱいなら残す。そもそもここは日本で、日本人のほとんどは食べすぎだ。食べなくて体調不良になる人間は少ない」と僕は言う。母親が「ウチには、いろんなものがあるから好きなだけ持って行きなさい」とフルーツの盛り合わせを見せて言う。高級缶詰や高級食材が並んでいる。僕は「必要なものは僕の部屋には既に有る」と答えて一つも受け取らない。
僕は昔からそういう人間だった。どうにも駄目なのだ。そういうのを「優しさ」だと認識できない。いや、できる。できるが「優しさ」というものを、偽りたくない。本当にそれは優しいのか? 嘘をついて笑顔でゴミにすることは、優しさなのか? 正直にいらないものをいらないと言うのが優しさではないのか? そうやって、部下を失ったこともある。そうやって叔母から怒られたこともある。
だけど、駄目だ。それができない。誠意のない態度が許せない。笑顔で受け取ったその裏で「ゴミだ」なんて態度が許せない。いらないものはいらないと言う。いるものはいると言う。他人の評価は関係がない。僕が欲しいものなら、他人が「もっといいものがある」と言っても、僕が選んだものを選ぶ。
僕の弱点だ。鎖は一番弱い輪で切れる。