不安は消えません

歩いていると、一人の青年が僕を追い越していった。僕は、はっとして顔を上げる。スピード狂の僕は歩いていて人に抜かれることが滅多にない。意図してゆっくり歩いている時ぐらいだ。だが今は、そんなことも考えていなかった。ひどく足取りが重たい。
下を向いて歩いていて。道さえもよく見ていなかった。
多くの人はこんな気持ちで毎日を歩いているのだろうか。普段の自分がそんなに足取りが軽かっただろうか。
死んだら何も残らない。そのことがひどく心細く思えた。死んで何も残さない。そう心がけてきていたのに。世界に名を残したり、子どもを残したりすることで、死んでも「あの人はいたね」と思い出してもらいたいのだろうか。それができたら、こんな不安はなくなるのだろうか。
いや、結局のところ不安は残るだろう。不安は永遠に消えない。それが許容できるかできないかの違いだ。できないときは、弱っている。