特殊能力:サーモスタッド

自分が持っている特殊能力の一つに『壊れたサーモスタッド』がある。僕が命名した能力で、他人からその話を聞いたことはない。本来の能力は『身体の末端が暖かくなる』という能力。
たとえば、寒くて手足の先が冷たいとする。雪の中を歩いているとわかるだろう。最初は痛いが、次第に指先は痺れ、足先の感覚はなくなっていく。このような症状のとき、在る一定時間を過ぎると、僕の四肢は唐突に温かくなってくる。わきの下よりもずっと暖かいほどだ。これは、血行の問題だと考えている。唐突に温かい血液が足のほうに流れ込んでくるような暖かさがある。内側から暖かいのだ。
僕は真冬の布団の中で、この能力に目覚めた。冬場でも、足先が温かい。これが本来の『サーモスタッド』の能力だ。しかし、僕の能力は『壊れたサーモスタッド』である。つまり壊れている。
というのも、この能力、まったく暴走していて、自分の意思ではスイッチのオンオフが効かない。真冬の寒い布団の中で「早くスイッチ入れよチクショウ」といいながら、氷のような足先を、延々スリ合わせていたりする。そんな足先なのに、汗をかいていたりする。夏場の暑いときに突然スイッチが入り、氷に押し付けないと足が熱くて寝てられない、というぐらいになるときもある。つまり壊れている。
そして今は、キーボードを打ちながら冷たい足先をすり合わせ、スイッチが入るのを待っている。