心の中に棲む

あなたは家につくなり、ため息をついた。何か嫌なことがあって家に帰ってきたのだろう。会社で上司に何か言われたのか、それとも学校のテストが悪かったのか。それとも単純に電車でババアに席を割り込まれたのか、迷惑な自転車運転に腹を立てたのか、わからないが。
あなたは電気のついていない部屋に戻り、上着を脱ぐとそのへんに放り投げる。乱暴な態度でソファに身を投げ出す。頭の中にはさっきまであった嫌なことが渦巻いていた。天井を見上げる。蛍光灯が光っているだけで、それ以外は何も無いのに、瞬きをすることもなくそれを見つめている。
やがてあなたは、頭を切り替えるように大きくため息をつき、そして誰かの名をつぶやいた。すぐにあなたの口元がほころんだ。
誰かの名だ。
きっとあなたの頭の中にいる誰かが、あなたに笑顔を与えている。共に在る、ということはそういうことだ。物理的に同じ空間に同居することではない。

という、作り話。
ちなみに一人称文章、と三人称文章というものがある。主人公が「僕」という視点が一人称文章。すべての人物が名前で登場するのが三人称文章。これは二人称文章となる。小説だと滅多に見かけない。