ある霊感商法で死んだオッサンの話

ある霊感商法を信じたオッサンがいた。そのオッサンは売りつけられた特殊な水でガンが治ると信じていた。オッサンはガンだった。水を売る側もこの水でガンが治ります、と言って高額な水を売っていた。オッサンはその水を飲み続け、まったく改善せずに死んでいった。
誰かが言う。あのオッサンは騙されたんだ。誰かが言う。あのオッサンはバカだ。
でも僕はちょっと違う印象を受けた。
「疑って安全を保つより、信じて裏切られた方が良い」前田慶次の台詞だ。もし彼の酒に、毒を盛られて死んでいたら、彼はどう思っただろうか? 信じるとは、そういうことだ。宗教とはつまり、そういうものだ。
自爆テロをする人間は、自分から望んで自爆しているではないか。信じたやつは幸福に死んだのだ。血液型占いを見る。星占いを見る。女性の品格。ライフハック。前世の話。スピリチュアル。魂。いろんな『作り話』を見る。だけどそれで誰かが救われている。くだらないと誰かが言う。それは『作り話』だと誰かが言う。だけど実際に救われる人間がいる事実は覆せない。そいつらが心底バカなだけかもしれない。だけどその心底バカを救ったのは『真理』ではなく『作り話』ではないか。
そのオッサンを幸福にしたのは誰だろう? オッサンの死に顔は、満足そうだった。
…という作り話。