神という空想を具現化する術

あるところに天才がいた。その天才は、現象に理由をつけた。
地上に林檎が落ちるのを見て、地球が林檎を引っ張っているという理由をつけた天才がいた。名前を万有引力と名づけた。ニュートンは多くの人間を説得し、納得させ、理解させるまでに何年という月日が必要だった。
自分たちの立っている地上も空にある星のひとつであり、地球は太陽の周りを回っているという理由をつけた天才がいた。名前を地動説と名づけた。ガリレオは、しかし多くの人間を説得するまでに膨大な犠牲と投資を払うハメになった。その間、納得できない人々は、天動説を信じた。
動物は自然環境に適応して肉体を世代交代ごとに変質させていくことができる、という理由をつけた天才がいた。名前を進化論と名づけた。ダーウィンは、多くの人間を説得したが、彼の理由を聞いたほとんどの人間は「猿が人間になるかバカ!」と笑いものにした。
キレイな貝殻を見せて「これは珍しくて滅多に手に入らない貴重な貝殻なんだ」という理由をつけた天才がいた。名前を価値と名づけた。どこの誰だか、わからないが、ペテン師は、多くの人にそれを信じさせた。貨幣の始まりだ。信じない人々は従来どおりの物々交換を続けた。
多くの天才たちが、多くの現象に理由をつけ、人々はそれを信じた。あるものは信じられずにいたかもしれないが、後世に同じ理由にたどり着く人々によって穴埋めされ、その理由は信じられるようになった。一番重要なのはここだ。「多くの人が信じた」こと。真実とは、自分がより信じられる仮定のことである。
理解不能な現象に対して、ブラックボックスを用意し、なんでも放り込める「オカルト」という理由をつけた天才がいた。妖怪のせいだ、黒猫のせいだ、たたりのせいだ、魔女のせいだ。多くの人がそれを信じた。多くの人がその仮定を信じた。おそらく、そういった現象の原因に理由をつけた天才がいた。名前を神と名づけた。