天使を見たことがあるか?僕は女神を見たことがある。

ある寒い日。風が冷たく強い。天気は昼間なのに薄暗い曇り空で今にも雪が降りそうだ。横断歩道をみんなが猫背で歩いていく。天気予報ではどうだったろう。その日の天気予報を見ていなかった僕はぼんやりとそんなことを考えて、学生時代から着ているぼろぼろのダウンジャケットのジッパーを閉めた。もう10年近く着込んでいるために、どんどん中身が抜け出てしまい、年々ペラペラになっていくが、まだ着られると騙し騙しに着続けている。騙されているのはダウンジャケットじゃあなくて、僕なのだろうけれど。
ダウンジャケットから出てきた中身が、ゴミになって洋服にまとわりつく。ジャケットの中に入っていたときは重要だったが、外にでてしまうと、もうゴミになってしまう。それを指でつまんで道に捨てた。羽が風に舞って飛んでいく。1秒もしない間に、羽はもう認識できなくなって、消えてしまった。とくに感想もなく、出した手をポケットに入れた。背中をごそごそと触られて、振りむくと彼女が触っている。手にはジャケットから抜け出た羽毛と持っていて、つまんだ指で器用にもてあそび、僕の前にそれを突きつけた。
「羽が出てるよ。」と彼女が言う。
「生え変わり時期なんだ。」と僕が言う。
「天使なんだね。」と彼女が言う。
「バレたか。」と僕が言う。
他愛もない会話。何気ないやり取り。天使を見たことがあるか?僕は女神を見たことがある。

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はい。ここまで読んだ人、手をあげて。はい、おろして。じゃあ僕はボロッボロのダウンジャケット着てくるから。羽とか出てるから。黒いダウンだから白い羽とか妙に目だって「うわ、なにあの貧乏くさいの」って思うようなたしか、当時4890円!とかダイエーとかそんなんで買った安物だけど引かないように。ちゃんと台本通り行動するように。お願いしますよ、ホントに。あとアドリブとかそんなのいらないから。っていうか僕が対応できないから。アドリブとか入れられると僕が「う、あ、え?」とか言い出すから。マジでお願いしますよ。んでこの後は、ベッドシーンだから。ウヒヒ。