夏休みSF劇場:

こんな科学万能な世界になったのに…いや、なったからなのか、僕らの周りでは誰一人UFOを信じちゃいない。人類が月面を踏んでから随分経つし、お金さえあれば月旅行にいける。かつてコロンブスアメリカに行くのに決死の覚悟で行っただろうが今じゃ飛行機で10時間かからないし、東京から北海道への新幹線も2時間を切ったっていうのにだ。
自分の目の前に銀の円盤が降りてきて、UFOマニアの友人が「こいつはアダムスキー型だ」と教えてくれたっていうのに、僕はいまだに目の前のものを信じちゃいない。このテレビから飛び出したみたいな奇っ怪な形の銀色の塊がUFOだって? 怪訝な顔をして僕は友人を見ると、友人はヨーロッパセリエAのスーパースターが目の前にいるかのように目をキラキラと輝かせていて、その純真無垢な感じがちょっとだけうらやましいと同時に、こいつはただのバカなのかもしれない、とも思った。
とにかく現実に起こったことだけを書くならば、僕らの目の前には音もなく唐突に巨大な銀色の塊が現れた。
直径は20メートルぐらいだろうか。地上から1メートルほど浮かんでいて、触れても感電しないのかちょっと疑問に思う。表面は当時人気だったMacみたいにつや消しの銀色で、窓も入り口も見当たらない。金属の塊が目の錯覚みたいに浮かんでいるように見える。
暫くの間、僕と友人は、アホみたいに口を開けてそれを見ていた。そもそもクラスメートが仕掛けたいたずらにしては大掛かり過ぎるし、テレビ番組の企画かもしれないと周囲を見回したが、住宅街の路地裏は壁に阻まれていて、どこからか覗かれている気配はない。
僕ら二人がアホみたいに向こうからのアクションを待っていると、貝殻みたいに銀色がゆっくりと二枚にわかれ、口を開けていく。中から煌々とした明かりが漏れだした。まぶしい。僕らは目を細め、中を覗き見ようと必死になったが、目が痛くてやってられない。
ようやく目が慣れてくると、真っ赤なジャケットと真っ青なジャケットの二人組の男が光の中に立っていた。二人は拍手をしながらその場で足踏みを数度してから、ぴたりと立ち止まり、僕らを見て言った。
「はーい、どもども、毎度おなじみ、宇宙人ズでーす」
「さすがに初めて見るやろ」
青いジャケットのほうが、赤いジャケットのほうを裏拳で叩いた。
僕は思わず「出落ちだろ」と言った。