蒐集家

ある男がいた。そいつは、チョコエッグの収集家だった。今まで1個のフィギュアに1万円も払って買ったこともあった。イベントがあれば、いろんなところへ出かけ、限定版と聞きつけては、その場で10個のチョコレートを食べつくし、チョコエッグを集めた。
1000万円もかけた頃、寝る場も満足にない、おもちゃであふれかえった自分の部屋を見渡して、男は、ふと、自分の半生を振り返った。
そして落ち込んだ。
こんなに金を無駄に使ってしまった。こんなに時間を無駄にしてしまった。こんなおもちゃに金をかけていた。その分、その時間、その金額、オシャレにしていれば、モテただろう。勉強していれば身になったはずだ。投資していれば金持ちだったかもしれない。自分の貴重な人生を無駄にしてしまった。なんという無駄な人生だ。生まれ変わるのが、神の御心か。決別しよう。今までの己は死んで、生まれ変わるのだ。
男は、ゴミを捨て、新たに人生に旅立つと決めた。
…さて、その男は、誰だろうか。君か? 僕か? それとも君の知り合いか? 金をかけたのはフィギュアだろうか。コスメだろうか。それとも野球グッズだろうか。異性へのプレゼントだろうか、アニメだろうか、それともプレイしたスポーツの時間だろうか。人は何かを捨てて前に進むのだろうか、それとも拾って帰るのだろうか。
そいつの今までの人生を無駄にしてしまったのは、誰だろうか? 無駄だと決めたのは、誰だろうか? そいつは結局のところ、蒐集家ではなかった、選ばれるべき魂ではなかったのだろうか。