思い出は過去にあるが、未来のために使われる

もう90歳になる祖母がいる。
彼女は枕元にある写真を取り出すと、僕に見せて言った。
「ほら、私にもこんなに上品な奥さんだった時期があったのよ」
その写真の中には、上品な上着を着た祖母が、帽子をかぶって立っていた。旅行先で、背景は桜が満開だった。彼女がいくつのときの写真だろう。70歳だろうか80歳だろうか。背筋はしっかりと伸びていて、こちらに向かって微笑んでいる。この写真が一人で行った最後の旅行だったようだ。
今の祖母はすでに自分一人で外出することはできず、トイレに行くだけでも息切れを起こしている。彼女が写真を見て、思い出に浸るときの会話には、今の自分の惨めさがじわりと滲み出すように聞こえる。僕の思い過ごしかもしれないが。
思い出は何のためにあるのだろうか。
なぜ美しくなってしまうのだろうか。
今は、思いつかないが…なにか、未来をより良くするために使われるものだと思いたい。